連載 アート市場を、数字で考える Vol.4
買い手は、これからどう変わるのか
連載「これからのアート市場を、数字で考える」第4回。団塊の世代が75歳以上になった今、作品の買い手がどう変わるかを数字で見ます。

いつものお客さんが、年を重ねてきた
展示に来てくれるいつものお客さん。気づけば、その顔ぶれが少しずつ年を重ねてきた。
「最近は足が悪くて、なかなか来られない」。そんな言葉を、展示の会場で聞いたことはないでしょうか。
長く作品を買い支えてくれた人ほど、年を重ねています。それは、とても自然なことです。
その人たちに、これからも作品を楽しんでもらいたい。そう願いながらも、新しいお客さんとの出会いが少ないことに、気づいている作家は多いはずです。
今のお客さんだけを見ていると、10年後のことは見えにくいものです。けれど、10年後の作品の行き先は、今日の出会いから始まっています。
ここで、ひとつ考えてみてください。その人たちの次に、作品を迎えてくれるのは誰でしょうか。
今のお客さんを大切にすることと、次のお客さんと出会うことは、どちらも欠かせません。
今のお客さんを大切に。
次のお客さんとも出会う。
あなたは、10年後のお客さんの顔を、思い浮かべられますか。
2025年、団塊の世代がすべて75歳以上になった
日本の人口を見てみます。団塊の世代は、2025年に全員が75歳を超えました。75歳以上の人は、約2,180万人です。

人口に占める75歳以上の割合は、2024年に16.8%でした。2070年には、およそ4人に1人になると見込まれています。
これまで高い作品を買ってきたのは、ゆとりのある、年齢の高い人たちが中心でした。この先10年で、その世代の人数は減っていきます。
一方で、若い世代の人口は、それより少なくなっています。今までと同じ売り方のままでは、次の世代と出会う機会は、自然には増えていきません。
日本のアート市場は、2023年に946億円で、前の年より10%減りました。減ったのは、主に高額の作品です。
今までの買い手だけに頼っていると、作品が届く先は、少しずつ細っていきます。
買い手の世代が入れかわる今は、作品の届け方を見直す時期でもあります。今のお客さんが元気なうちに、次のお客さんと出会う道を、少しずつつくっておきたいのです。
買い手の世代が、
いま入れかわり始めている。
外から見てきた、わたしの感覚

わたしはアート業界の外から来た人間です。外から見て、感じていることがあります。
これまでアートが買われてきたのは、百貨店や画廊、美術館のような場所でした。来る人は裕福で、年齢も高い人が多かったように見えます。
その人たちが年を重ねて減っていけば、今までの売り方で買われる作品も、減っていくはずです。
だから、その市場だけを見るより、一般の人の市場を見たい。わたしは、そう考えています。
わたし自身、50歳を過ぎるまでアートを買ったことがありませんでした。出会う場所がなかっただけで、欲しいと思えば買うお金はありました。
本物の作品の前に立ったとき、心をつかまれ、その場で買うと決めました。50歳を過ぎるまで出会わなかったのは、もったいない人生だったと、今は思います。
今までの買い手の外に、
次の買い手がいる。
数字で答え合わせ:作品と出会っていない人は、どこにいるか
この感覚を、数字で確かめます。文化庁の調査で、この1年に文化芸術を外へ出て見た人は45.3%でした。前の年の52.2%から減っています。
半分以上の人が、この1年、展示や公演に足を運んでいないのです。今までの売り方が届く範囲は、思っている以上に限られています。
見に行かなかった人に、理由も聞いています。「関心がない」の23.6%に続いて、「近所でやっていない」が15.6%でした。
「今までの買い手が減れば、今までの売り方での購入も減る」という感覚は、当たりです。買い手の中心だった世代が年を重ね、市場の高額の作品も減っていることは、数字で確かめられました。
一方で、近くに展示がないから見に行かない人もいます。その人たちは、関心がないのではなく、出会う場所がないだけかもしれません。
世代が入れかわっても、作品を迎えたい人がいなくなるわけではありません。出会う場所が、今の暮らしに合っていないだけなのです。
若い世代は、スマホで物を探し、気に入ればその場で選びます。その暮らしの中に作品があれば、出会いは自然に生まれます。展示の会場だけで待つより、ずっと多くの人の目に触れるはずです。
関心がないのではない。
出会う場所が、近くにない。
7ARTSは、世代を問わず作品と出会える場所をつくる

7ARTSは、作品と出会える場所を、作家のみなさんと一緒に増やしています。年代も、住む場所も問いません。
7arts.jpの作家ページは、スマホからでも、夜中でも見られます。展示の会場に来られない人とも、作品が出会えます。
作品を、暮らしの中に飾った姿で見せる仕組みもあります(解決策1 飾ってみて)。
作品を気に入った人が、SNSで紹介してくれる仕組みもあります。紹介した人の友人が、作品と出会うきっかけになります。
ただ、どの世代に、どんな作品を届けたいのか。そこを決めるのは、作家自身です。
若い世代に届けたいなら、その人たちの部屋に合う大きさや、暮らしの言葉で作品を紹介する。届けたい相手が決まれば、見せ方も自然に決まっていきます。
出会いの場所は、
世代を選ばない。
お客さんの年代を書き出してみる

これまで作品を買ってくれた人の年代を、紙に書き出してみてください。覚えている範囲で、ざっくりでかまいません。
次に、ひとりもいない年代に印をつけます。20代、30代、40代。空いているところが、まだ出会っていない世代です。
空いている年代が多くても、落ち込む必要はありません。それだけ、まだ作品と出会える人が残っているということです。
1つの年代に、1人でも届けば、そこから友人や家族へと、作品の話は少しずつ広がっていきます。焦らず、1人ずつで大丈夫です。
その世代が、ふだんどこにいるかを考えてみてください。空いている年代が、次の出会いの場所を教えてくれます。
次回は、売れている作家がひと握りなのはなぜかを、数字で確かめます。
7ARTSが作家のみなさんと取り組んでいることは、作家の方へのページでご覧いただけます。
出典
- 75歳以上の割合:内閣府「令和7年版高齢社会白書」/75歳以上の人数:厚生労働省の資料(2025年の推計)
- 日本のアート市場:文化庁「The Japanese Art Market 2024」(Arts Economics・Clare McAndrew)
- 鑑賞の状況:文化庁「文化に関する世論調査」報告書(2024年3月・全国18歳以上24,996人)



