連載 アート市場を、数字で考える Vol.3
アート業界は、いま盛り上がっているのか
連載「これからのアート市場を、数字で考える」第3回。アートフェアの来場者と市場の数字で、業界の今を確かめます。

展示をしても、手ごたえが薄くなっていませんか
個展を開いても、会場に来るのは見慣れた顔ぶれ。アートフェアに出しても、立ち止まる人が前より少ない気がする。
作家の方と話していると、こうした声を聞くことが増えました。会場の空気が、どこか静かになったように感じる。そんな声です。
準備に何か月もかけた展示です。それなのに、会期の最後に残るのは、売れなかった作品と、少しの疲れ。そんな経験が重なると、次の展示に向かう気力も削られていきます。
わたしも、外から見ていて同じことを感じていました。アートフェアに行っても、年々人が減っているのではないか。
ここで、ひとつ考えてみてください。アート業界は、いま盛り上がっているのでしょうか。
この問いに、感覚だけで答えるのは危ういことです。だから今回は、数字で確かめていきます。
盛り上がっているかは、
感覚ではなく数字で見る。
あなたは、最近の展示の手ごたえを、どう感じていますか。
日本のアート市場は、前の年より10%小さくなった
まず、市場の大きさを見ます。日本のアート市場は、2023年に946億円でした。前の年より10%減っています。
減ったのは、主に高額の作品です。高い作品をたくさん買ってきた人たちの動きが、鈍くなっているのです。
次に、作品を見に出かける人の数です。総務省が、美術館などで美術を見た人の割合を調べています。
2016年に19.4%だった人が、2021年には11.4%に減っていました。
この時期には、外出を控える動きもありました。それでも、見に出かける人が少なくなっていることは確かです。
5年前には5人に1人いた人が、今は10人に1人ほどです。同じ展示を開いても、足を運んでくれる人の数そのものが、少なくなっているのです。
市場が小さくなり、見に来る人も減っている。このまま同じ場所で、同じ人だけに見せ続けると、作品が人に届く機会は細っていきます。
市場も、見に来る人も、
少しずつ細っている。
外から見ていて、人が減ったと感じていた

わたしはアート業界の人間ではありません。外から見てきた、わたしの感覚をお話しします。
アートフェアに足を運ぶたびに、人が減っているように感じていました。なぜなのかを考えると、答えはもう出ているように思えます。
これまでアートは、限られた場所で、限られた人に向けて売られてきました。その人たちが年を重ねれば、見に来る人も、買う人も減っていきます。
新しい販路と、新しい市場をひらかなければ、アート業界はこれから楽しくなっていかない。わたしは、そう考えています。
作家にも、ギャラリーにも、作品を買う人にも、うれしい形をつくりたい。誰かが損をするのではなく、みんなで良くなっていく。それが、わたしの考える新しい売り方です。
今までの売り方を壊したいのではありません。百貨店や画廊の売り方は、これからも大切です。そのうえで、新しい売り方を一つ増やしたいのです。
今までの売り方を大切にしながら、
新しい売り方を一つ増やす。
数字で答え合わせ:来る人は戻りきらず、売れる額は増えた
この感覚が当たっているか、アートフェア東京の数字で確かめます。

来場者は、2019年に60,717人。2024年は55,015人、2026年は56,938人でした。2019年の数には、まだ戻っていません。
一方で、2026年の売上は過去最高の36.5億円でした。見に来る人は大きく増えていないのに、売れる額は伸びているのです。
「年々人が減っている」という感覚は、一部当たりです。毎年減り続けているとまでは言えません。ただ、来る人が戻りきっていないことは確かです。
買う人が、限られた人たちに集まっているとも読めます。その輪の外には、まだ作品と出会っていない人が大勢いるはずです。
会場に足を運ぶ人を大切にしながら、会場の外にいる人にも作品を届ける。2つの道を持てば、市場が小さくなっても、作品の行き先は細りません。
出会う場所が増えれば、会場に来なかった人も、作品を見つけられるようになります。展示の手ごたえは、会場の外からも生まれます。
会場に来ない人にも、
作品を見つけてもらう。
7ARTSは、フェアに来ない人がいる場所へ作品を運ぶ

7ARTSは、会場に足を運ばない人にも作品が届く場所を、作家のみなさんと一緒に増やしています。
7arts.jpには、作家ごとのページがあります。作品を載せておけば、時間や場所に関係なく、誰でも作品を見られます。
作品を、カフェやホテルのロビーに飾った姿で見せる仕組みもあります(解決策1 飾ってみて)。
サイトは5か国語で表示できます。日本で制作を続けながら、海外の人にも作品を見てもらえます(解決策2 外国語表示)。
福岡のギャラリーでは、通りから作品が見える店先で、作家の作品を紹介しています。ふと足を止める人との出会いが、そこから生まれます。
ただ、場所があるだけでは足りません。どの作品を、誰に見てほしいのか。そこを考えるのは、作家自身です。
本当にアートで生きていきたいなら、作家自身が本気になることが欠かせません。場所を増やすことと、本気で届けること。その両方がそろったとき、作品は会場の外へ旅立っていきます。
場所は一緒につくる。
誰に見せるかは、作家が決める。
次の展示で、「初めて来た人」を数えてみる

次の展示で、来てくれた人を数えてみてください。知り合いと、初めて来てくれた人を分けて数えます。
数えてみると、知り合いの割合が思っていたより多いことに、驚くかもしれません。それは、悪いことではありません。次に何をすればいいかが、はっきりしたということです。
初めての人には、何を見て来てくれたのかを、一言だけ聞いてみてください。案内状、SNS、通りがかり。答えは人それぞれです。
そのきっかけの場所を、1つ増やしてみる。初めての人が1人増えるたびに、展示の手ごたえは戻ってきます。
次回は、作品を買ってきた人たちが、これからどう変わっていくのか。それを、数字で確かめます。
7ARTSが作家のみなさんと取り組んでいることは、作家の方へのページでご覧いただけます。
出典
- 日本のアート市場:文化庁「The Japanese Art Market 2024」(Arts Economics・Clare McAndrew)
- 美術鑑賞の行動者率:総務省統計局「令和3年社会生活基本調査 生活行動に関する結果」(2022年8月)
- アートフェア東京の来場者:アートフェア東京の公式発表(2024年の開催結果)・報道(2019年・2026年)



