連載 アート市場を、数字で考える Vol.1
なぜ、いい作品が届かないのか
連載「これからのアート市場を、数字で考える」第1回。50歳を過ぎて初めてアートを買った7ARTS代表・岩永が、外から見てきたアート業界の感覚を、数字で確かめます。

こんな悩みはありませんか
心をこめて描いた作品が、なかなか売れない。
個展を開いても、見に来る人の数が増えていかない。
SNSに載せても、思うような反応が返ってこない。
作品には自信がある。それなのに、どうすれば届くのかが分からない。
作家の方と話していると、こうした声を本当によく聞きます。
ここで、ひとつ考えてみてください。描く力と、届ける力は、同じものでしょうか。
作品を生み出すことと、その作品を見てほしい人の前に置くこと。この2つは、まったく別の仕事です。
描く力と、届ける力は、別の仕事。
作品が届かないのは、作品の良し悪しだけが理由ではないのかもしれません。
あなたの作品は、見てほしい人に出会えていますか。
今の売り方だけでは、届く人は減っていく
これまでアートは、主に百貨店の美術画廊や、街の画廊で買われてきました。
そこに足を運ぶのは、アートに親しみ、ゆとりのある人たちです。そして、年齢が高い人が多いのが実情です。
一方で、日本の人口は大きく変わっています。
2025年、団塊の世代がすべて75歳以上になりました。75歳以上の人は、およそ2,180万人です。
長くアートを買い支えてきた人たちが、これから少しずつ、買う側から離れていきます。
市場の数字にも、その変化が表れています。日本のアート市場は、2023年に946億円。前の年より10%減りました。減ったのは、高額の作品です。
もう1つ、大事な数字があります。美術品を買ったことがある人は、日本全体で約16%。100人のうち84人は、一度も作品を買ったことがありません。
今までと同じ場所で、同じ人たちにだけ届けていると、作品が届く人は少しずつ減っていきます。
見方を変えれば、その84人には
まだ誰も、声をかけていない。
50歳を過ぎて、初めてアートを買った日

わたしは50歳を過ぎて、初めてアートを買いました。
それまで、アートにそれほど興味はありませんでした。作家の友人も、アートの世界に詳しい知り合いもいませんでした。
ところが、本物の作品の前に立ったとき、「ガビーン」ときたのです。
アートの力を、思い知らされました。これは素敵だ。買うしかない。気づけば、そう思っていました。
一目惚れでした。数百万円の作品を、その場で買うと決めていました。
なぜ、あれほど迷わず買ったのか。あとで何度も、自分に問いかけました。
たどり着いた答えは、原画の力です。画面や写真で見るのとは、まったく違う。本物だけが持つ力が、そこにありました。
そして、こうも思いました。50歳を過ぎるまでアートに出会わなかったのは、もったいない人生だった、と。
特別だったのではない。
出会う場所が、なかっただけ。
出会えば、買う人はいる
ここで、数字で答え合わせをします。アートを買った人に、買った理由を聞いた調査があります。

「気に入って衝動的に買った」と答えた人は29%。およそ3人に1人です。「コレクションする」の15%の、およそ2倍です。
わたしの一目惚れは、めずらしいことではありませんでした。作品に出会えば、心が動いて買う人はいる。感覚の答えは「当たり」です。
もう1つ、見てほしい数字があります。いちばん多い理由は「部屋に飾る」の32%でした。
作品を買う人は、特別な収集家だけではありません。自分の暮らしの中に、好きな作品を置きたい人たちです。
作品を選ぶ人は、ふだんの生活の中にいます。カフェで、美容室で、病院の待合室で、ふと目にした1枚に心が動く。そんな出会いが、次の1枚につながるかもしれません。
心から欲しいと思った作品なら買えるお金を持っている人は、たくさんいます。足りないのは、作品に出会える場所です。
買った人の3人に1人は、一目惚れ。
7ARTSは、新しい販路と市場を一緒にひらく

百貨店や画廊、画商のみなさんが続けてきた売り方は、これからも大切です。7ARTSは、それを壊したいのではありません。新しい作家を見つけて紹介するなど、業界の役に立てることもあるはずです。
わたしのビジネスの基本は、ウィンウィンウィンです。作家も、ギャラリーも、作品を買う人も、誰も嫌な思いをしない。みんなで良くなって、みんなで笑い合える形をつくりたいと考えています。
そのうえで7ARTSは、まだアートに出会っていない人と作品が出会える場所を、作家のみなさんと一緒に増やしています。
福岡のギャラリーでは、通りから作品が見える店先で、作家の作品を紹介しています。
フランスのモン・サン=ミッシェルでは展覧会を開き、世界中から訪れる人に、日本の作家の作品を見てもらいました。
7arts.jpでは、作家ごとのページで作品を紹介し、購入やオファーの窓口にしています。
お店の壁に作品を飾るコラボ展示では、カフェや美容室など、ふだんアートと縁の少ない場所に作品を届ける取り組みを進めています。
新しい販路は、ひとりで切りひらくには長い道です。だからこそ、一緒にひらいていきたいのです。
新しい販路は、一緒にひらく。
今日、ひとつだけ考えてみてください

あなたの作品を、まだアートに出会っていない人に見てもらうなら、どこがいいでしょうか。
カフェ、美容室、病院の待合室、ホテルのロビー。答えは1つでかまいません。
次に、その場所に来る人の顔を思い浮かべてみてください。どんな年代の人でしょうか。どんな気持ちで、そこにいるでしょうか。
その人が、あなたの作品の前で足を止める場面を想像できたら。そこが、新しい販路の入り口です。
次回から、数字でさらに確かめていきます。
- アートは、どこで買われてきたのか
- アート業界は、いま盛り上がっているのか
- 買い手は、これからどう変わるのか
- 売れている作家が、ひと握りなのはなぜか
- お客さんは、誰についているのか
- 新しい売り方と、世界へ
7ARTSが作家のみなさんと取り組んでいることは、作家の方へのページでご覧いただけます。
出典
- 買った理由:「日本のアート産業に関する市場調査2021」一般社団法人アート東京・一般社団法人芸術と創造(文化庁委託事業)「美術品購入の目的(全購入者・いくつでも回答)」
- 作品を買ったことがある人の割合(約16%):「日本のアート産業に関する市場調査2018」一般社団法人アート東京・一般社団法人芸術と創造(2019年3月4日発表・約2万人を対象)
- 75歳以上の人数:厚生労働省の資料(2025年の推計・国立社会保障・人口問題研究所の将来推計にもとづく)
- 日本のアート市場:文化庁「The Japanese Art Market 2024」(Arts Economics・Clare McAndrew)



